パナソニックが、絞り部分にRGB各色のフィルタを設け、レンチキュラ等によって各画素に各分光を入射させることで、色分離を行う特許を出願中です。
この特許により、カラー画像とモノクロ画像もしくは紫外線・赤外線画像を同時に得ることが可能です。
特許の構成。Lは結像レンズ、Sは絞り、L1は絞り近傍のカラーフィルタ等、Kはアレイ状光学素子、Nは撮像素子。
特許文献、及び要約・自己解釈
- 特許公開番号 2012-235472
- 公開日 2012.11.29
- 出願日 2011.4.22
- 撮像素子のカラーフィルタ
- 有機材料(顔料or染料)が使われている
- 赤外光を通す
- IRCFを設けなければならない
- 可視光と赤外光を同時に取得出来ない
- 有機材料カラーフィルタ
- 波長帯域が広い
- 狭い波長帯域の色情報を取得出来ない
- RGB各フィルタは、理想帯域外にオーバーラップする為、色再現性が悪い
- 既知の技術
- 誘電多膜層(UV/IRCF等)を画素毎に形成することは困難で、高価になる
- 時分割撮像方式は動体に向かない(分光特性を切り替えてもう一回撮影する)
- 生産性の問題
- 生産性により、撮像素子の機種毎に分光特性が統一されている
- カメラメーカーが、撮像素子メーカーに、分光特性を指定することは困難
- パナソニックの特許
- マルチスペクトル画像を得る
- マルチスペクトル画像とは、分光情報を画素毎に持つ
- 結像レンズと撮像素子の間に、アレイ状光学素子を設ける
- アレイ状光学素子は、第1波長の光を第1画素に入射させ、第2波長の光を第2画素に入射させる
- カラーフィルタは結像レンズの絞り表面上に設ける
- Red、Green、Blue、Cyan、Magenta、Yellow等
- モノクロ撮像素子でフルカラーを得られる
- 誘電多膜層のカラーフィルタを用いて色再現性向上
殆どのデジタルカメラにはUV/IRCFが設けられています。
赤外光を受光すると撮像素子の信号値が狂ってしまい、画質が劣化するのですね。
UV/IRCFは撮像素子全体を覆う大きなフィルタですが、これは画素毎に形成することが困難であるからのようです。
従って画素毎にフィルタを変えてカラー画像と赤外画像を同時に得るカメラの実現も困難となります。
パナソニックの特許は、結像レンズの絞り近傍にRGBやUV/IRCFを設け、撮像素子側に何らかのアレイ状光学素子を設け、分光した光を各画素に入射させることで色分離を行うというものです。
絞り近傍に設けられたフィルタをR+UV/IRCF、G+UV/IRCF、B+UV/IRCF、Wの4分割とすればカラー画像と赤外画像の同時取得です。
4分割の例
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絞り近傍のカラーフィルタ例。4分割し、4種類の波長帯域を得られる。 |
フォトダイオードの並び。この例では4種類の波長帯域の光を得た。 |
光学エフェクト不要論 vs 光学エフェクト必要論
「撮像素子が大きくなるとボケも大きくなる」とよく言われますが、経緯を省略すると読み手に誤解を与えることがあります。
所謂、撮像素子が大きくなると同じ画角を得る為には長い焦点距離が必要になってボケが大きくなるのですが、こういった何らかの誤解が論争を生みます。
例えば、光学エフェクト不要論者の主張が「(フィルタを外せば更に画質が良くなると思うから、) 結像レンズと撮像素子の間に余計な光学エフェクトは不要。UV/IRCF外せ。」で、光学エフェクト必要論者の主張が「(フィルタを外せばある種の画質が悪化するから必要な光学エフェクトが存在する。) 嫌なら使うな。終了。」といったものでしょう。
両者とも画質を追求したい基本的な姿勢は変わらないのに、括弧内を省略してしまうから、お互いを理解せず、衝突してしまうのですね。
双方の真意を汲み、フィルタを外しても悪影響が出ない仕組みの考案や、光学エフェクト不要論が納得するような画質の実現をすることがカメラメーカー並びに彼らエンジニアの仕事ですね。
今回の特許記事に因んで光学エフェクトを挙げましたが、何も光学エフェクトに限った話ではありません。
このパラグラフの小タイトルは「風が吹けば桶屋が儲かる」でも良かったかもしれませんね。
当Blogも、言葉通りに受け取る方、言葉の裏にある真意を見抜く方、多種多様です。
各部位の拡大図
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アレイ状光学素子の例。この例ではマイクロレンズアレイ。 |
受光の仕組み。Kはアレイ状光学素子、Pはフォトダイオード。 |
ユーザー関心の高まる、画素数と高感度以外のスペック
パナソニックのカメラ事業は実に幅広く、この特許は写真用ではなく、医療やセキュリティカメラ等の業務用に向けたものです。
しかし写真用カメラに転用したら大変面白いと思います。
オリンパスのアートフィルターに端を発し、何らかのソフトウェア処理への関心が高まっていますね(アートフィルターが初ではありませんが世間の認知が高いので)。
ミニチュアライズ/ジオラマ風撮影、トイカメラ風、漫画カメラ、クロスプロセス、モノクロ等があります。
その一方で、ハードウェアレベルで鮮烈な画質を得たいニーズは昔から多いものです。
メーカー各社の大型センサーや大口径レンズによるボケ、
シグマの垂直色分離で偽色をなくしローパスレスで高い解像感を得られるFoveon、
富士フイルムのカラーフィルタ配置工夫でローパスレスながら偽色の発生し難いX-Trans CMOS、
そしてPhaseOne Achromatic+やLeica M モノクローム等のモノクロ専用センサー。
最後に挙げたモノクロ専用センサーですが、真のモノクロ画質を得る為に、モノクロ専用のカメラを使うのは敷居高いです。
カラー画像なら彩度を落とすことで擬似的にモノクロ画像を得ることが出来ますが、その逆は非常に手間がかかるからです。
パナソニックの特許は後者のハードウェアでの改善になります。
パナソニックの特許なら、カラー画像を得つつもピュアに近いモノクロ画像も同時に得ることが出来ます。
モノクロというのはあくまでも例で、特許文献通り赤外画像でも良いです。
それならRGBW配列で良いじゃないかと思われるかもしれませんが、はい、その通りです。
またどちらも画素補間が必要になってしまいますね。
写真用カメラに応用して最大限の効果を得る為に
特許のカラーフィルタ構造に、ミノルタTC-1に使われたターレット式の円形絞りやメーカー各社の内蔵NDフィルタの仕組みを採用したら面白いでしょう。
例えばRGBとWWWの切換式にすれば(ワールド・ワイド・ウェブじゃないですよ)、同時記録では出来ませんが、カラー画像と、画素補間等の無い真のモノクロ画像を得ることが出来ます。
その他に、日中屋外等の明るい場所ではRGBフィルタ、室内や夜間等の暗い場所ではCMYフィルタを使うことで、色再現性が悪化しつつもカラーでの高感度により強いカメラを実現出来るでしょう。
また紫外線撮影用フィルタを用意すれば紫外線写真も同時に得られますから、肌の状態をマッピングし、シミ等の部分に自動でソフトフィルタをかければ、ファッション・ポートレート撮影も効率化しそうです。
この特許の欠点として、結像レンズとカメラ側の両方に工夫が必要なので、μ4/3等のレンズ交換式カメラへの採用が難しいことが挙げられます。
使えるとすれば、レンズ非交換式です。
ハイエンドのコンデジであるLXシリーズに採用すれば、真のモノクロ画質に理解のあるプロやハイアマチュアへの訴求力も高そうです。