東京電機大学出版局の「イメージセンサの技術と実用化戦略 ソニー技術者たちの挑戦」を買ったので、その感想をば。

- イメージセンサの技術と実用化戦略 ソニー技術者たちの挑戦
- 2013年1月20日
- ISBN 978-4-501-32920-4 C3055
- 著 越智成之
- 発行 東京電機大学出版局
- 定価 2520円(本体2400円)
イメージャー、イメージセンサー、或いは単にセンサーと様々な表記がされる撮像素子について、これから勉強したい方や仕事で活用したい方等、デジタルカメラの心臓部である部品を少しでも知りたい全ての方にお勧めです。
以前紹介した「CCD/CMOSカメラの原理と実践」は、比較的最近使われている撮像素子の構造についての解説が主だった内容です。 本書はソニーにおけるCCDの歴史を基本軸としているので、どちらの本が必要か、それとも両方必要なのかは推して知るべしです。 また、本書は「イメージセンサのすべて(工業調査会)」に加筆を行ったものだそうです。 私はその本を持っていないので、買い換える必要があるかは各個人の判断にお任せします。
第1章 イメージセンサの構造と動作
CCDやCID、CMOS等、各種撮像素子の原理、蓄積や読み出しの仕組みが紹介されています。 回路図を理解出来なくても、メリットやデメリットがざっくりと紹介されているので、誰でも読む価値があります。
民生デジタルカメラはその殆どがCMOSに置き換わってしまいましたから、新品カメラを選択する上では役に立ちません。 各BlogやBBS等では「CCDが~」という発言をよく見掛けますが、議論に参加したい方や、発言の根拠を理解したい方は必読です。
第3章 CCDの研究開発
著者もといCCD研究開発の苦労話。 殆ど無から始まったようなもので、要素技術を立ち上げてビジネスへ結び付けることの大変さを痛感させられます。 「その時、歴史が動いた」とでも言うのでしょう、一歩間違えればCCD/CMOSにおいて強みを誇る今のソニーはありませんでした。
どうして、CCDがソニーで成功したかとよく聞かれる。やはり一番は、
第4章 カムコーダ,電子カメラ,HDカメラの商品化
いよいよビジネスへの展開です。 1980年1月に世界初の商品化として、航空用カラーカメラ「XC-1」が全日空ボーイングスーパージャンボB747に搭載されました。 本当に大変なのは商売の方です。 少し引用。
私自身も激しい胃痛でダウンし、病院の予約をしたが、「そんな暇はないでしょう」と、営業技術部長が勝手にキャンセルした。
状況は様々でしょうが、私を含めてエンジニアにはよくあることです。
何か問題が生じた時、顧客からの信頼を失えば、その信頼を取り戻すのは並大抵のことではありません。 商品を売って得たお金で給料を支払うので、幾十、幾万という従業員とその家族に影響が出ます。 エンジニア一人の命で済むなら安いものです。
第6章 知的財産権と特許裁判
正当な特許料は支払うべきであろう。特許料は通常、商品の生産、出荷金額に対して要求される。ビジネスとして成功せず、他社から特許料を取ることは、必ずしも自慢できることではない。
誤解され易い表現ですが、重要でない特許を持ち出して成功企業から特許料をふんだくる場合だけを批判しているようです。
第7章 イメージセンサの最先端技術
画素の微細化、単層電極構造CCD、裏面照射型CMOS等の最新の技術について。 ここ数年の内にニュース等で報道された撮像素子もあり、現代に戻ってきたような感覚ですね。
第9章 イメージセンサ技術の将来展望
今後の技術や応用分野について。 要はやはり有機膜を使った撮像素子ですね。 当Blogでも時折紹介している通り、多数の企業が特許出願しています。 先行しているのはおそらく富士フイルムと NHKで、NHK技研公開では画素数が少ないながら有機センサーによる画像を見ることが出来ます。
新製品の発表
LUMIX G VARIO 14-42mm/F3.5-5.6 II ASPH./MEGA O.I.S. 商品化の狙いはLUMIX G X VARIO PZ 14-42mm/F3.5-5.6 ASPH./POWER O.I.S.と硝材を共通化することによるコストダウンでしょう。 しかも非球面を減らし球面レンズとすることで、共通化以上のコストダウンに成功していると思います。 低価格が進むミラーレスにあって、ほぼ同じ光学系で鏡筒が異なるモデルというのは良い戦略で、流行るかもしれませんね。
Tamron 14-150mm F/3.5-5.8 Di III VC(Model C001) ズームレンズは、何処かのメーカーみたいにマウントだけの挿げ替えが出来ず、フォーマット毎に専用設計しなくてはなりませんね。 フィルター径の割に最大径が太いのが気になりますが、フィルター径φ52mmはよく頑張ったと思います。
Sigma 60mm F2.8 DN 50mm F2.8がマクロ化されて登場すると踏んだのですが、まさかのマクロではない中望遠レンズでしたか。 MTFを見る限り、明るさではなく、開放から使える性能を狙ったのでしょうけど、万人受けはしないでしょうね。 手が滑らずにフォーカスリングを回せるのか気になります。
AF-S NIKKOR 800mm f/5.6E FL ED VR 特許は以前紹介した特開2011-197413だけでなく、今年に入って公開された特開2013-3354もあります。 キヤノンの蛍石はアッベ数95以上で、ニコンの特許文献によるとアッベ数が91.21~91.20のようですが、重要なのは硝材の性能ではなく、その使い方です。 または出願当時にたまたまスーパーEDガラスで検討していただけで、これから本命が公開されるのかもしれません。
ところでAF-S NIKKOR 800mm f/5.6E FL ED VRは電磁絞り採用のEとなり、フイルムカメラは勿論のこと、初期のデジタル一眼レフでも事実上使えません。 昔、PC-Eレンズが最初に登場した時に「今後は全てEタイプに置き換わるのか?」と質問したのですが、社員の方は「分からない」という回答でした。 同時発表のAF-S NIKKOR 18-35mm f/3.5-4.5G EDはメカ絞りですが、 次は、動画中の絞り変更という名目で、適当な安価レンズがEレンズとして登場するでしょうね。
しかしフードの価格が税込79,800円って。